はじめに
本記事は『ドラゴンクエストX オンライン』への「プレイはやめない、だけどもう期待もしない」という感情にごてごてと装飾を盛ったものです。
当然ながら同作への批判的な内容を含みます。閲覧は自己責任でお願いいたします。
また、同作Ver.7.4まで、および『ドラゴンクエストIX 星空の守り人』エンディングまでのネタバレを含みます。
前提
- 台詞の引用に際して、一部のスペースを省略あるいは読点に置き換えています。
- 本ページでは、両作品の主人公について以下のように記述します。
- DQ10の主人公:「10主人公」、台詞中で名前が出る場合は「〇〇〇〇〇〇」(6文字)。
- DQ9の主人公:「9主人公」、台詞中で名前が出る場合は「〇〇〇〇〇」(5文字)。
箱舟の先頭車両に僕たちはもう乗れない
目次
ボクは道化か守り人か ——失われた役目を探して——
「DQ10って徹底的に歪んでいたんだな」
『ドラゴンクエストIX 星空の守り人』を再プレイしてクリアする頃には、はっきりとそう感じるようになっていました。
正確にはもうすこし前、「英雄の終曲 DQ10とMHWildsに見る主人公の尊厳」を書いた頃から、ぼんやりと思っていました。
要約すると「MHWildsの『コーディネート選手権』的サイドミッションで、主人公ハンターは前座として笑われるだろうと思っていたら、そんなことはなかった。DQ10が主人公イジりを繰り返すから、『主人公とは道化である』と思考のクセがついたのだろう。だが、主人公とは本来英雄だ」という内容です。
あれが記憶に新しいうちにDQ9を再プレイし、ストーリーも終盤に差し掛かる頃、私はサンディのとある台詞に衝撃を受けました。
物語の序盤、女神の果実は世界樹に実ったものの、直後に天使界を謎の閃光が襲い、果実はばらばらに地上へと落ちてしまった。
人間界を巡って7つの果実を回収した9主人公は、それらを一度天使界へと持ち帰ることにする。
天使界へと天の箱舟を飛ばしながら、サンディが以下のように呟く。
「落っこちた 女神の果実が
あといくつあるのか 知りませんケド
見つけた分は 届けておくべきよね。「そうすりゃ 天使たちも
少しは安心すると 思うんですケド。「〇〇〇〇〇もがんばってるってコト
アピールしておかないと……んん?
「んん?」は天の箱舟の先頭車両に突如9主人公の師匠である天使イザヤールが現れたことを訝しがるちょっとした呟きで、ここから物語が大きく展開していきますが、問題は以下の部分です。
「〇〇〇〇〇もがんばってるってコト アピールしておかないと」。
ナビゲーター・相棒ポジションの人物が、「主人公は頑張っている」と認識していて、「そのことは皆にも理解されるべきだ」と考えている。
目を疑うような台詞でした。
そして思い至りました。
「あぁ、DQ10だ」と。
ヒロインというカテゴリー ——想いは形にしなくても——
超ドラゴンクエストXTV #40 「ドラゴンクエストX 未来への扉とまどろみの少女 オンライン」最新情報の1:04:14頃に、「ヒロイン&新キャラクターの紹介」というスライドが表示され、ヒロインのポルテと新キャラクターのラキが紹介されます。
あえて「ヒロイン」を分ける理由は何でしょうか?
DQ10にはヒロインという制度があります。
具体的には以下のような形で、バージョンごとに「ヒロイン」と「コンテンツ」がきちんと埋められています。
| バージョン | ヒロイン | コンテンツ |
|---|---|---|
| Ver.2 | 勇者姫アンルシア | 王家の迷宮/心層の迷宮 |
| Ver.3 | エステラ | エステラの部屋 |
| Ver.4 | メレアーデ | メレアーデのお部屋 |
| Ver.5 | イルーシャ | イルーシャのスケッチブック |
| Ver.6 | ユーライザ | ユーライザの思い出 |
| Ver.7 | ポルテ | ポルテのグルめぐり |
これは「この女の子は物語にとって特別です。彼女とが喜んでくれることはこれなので、この手順に従えばあなたはこの子と仲良くなれますよ」と物語の外から提示している状態です。
しかし、物語でしっかりと絆が描けていれば、別口で何かを贈り合わなくても「彼女は特別だ」と思えるし、「仲良くなれた」と感じて愛着も持てるはずです。
それこそ、サンディのように。
正解の空気に逆らうこと ——サンディは最高の友だち——
サンディはときに「空気」を無視してでもプレイヤーや主人公に寄り添います。
「超シラける」
ベクセリアの町にはびこる流行り病を鎮めるため、9主人公はイマイチやる気なさげな考古学者ルーフィンの護衛をすることになる。
ルーフィンが解読した古文書によれば、これは病気というより呪いの一種。その根源であった病魔パンデルムを9主人公が打倒し、ルーフィンが封印する。
ベクセリアへ帰った9主人公だったが、たったひとり封印完了前に病状が進行して命を落としてしまった人物がおり、それは町の誰からも慕われていたエリザ(ルーフィンの妻)だった。
エリザの父であるベクセリア町長は、ルーフィンを護衛してくれたらお礼をすると約束していたが、そのことも忘れるほどに落ち込んでいて、「これなんかいかがです?」とくれたものは頭装備「はねかざりバンド」。
サンディはというと、このお礼にひと言「……超シラける〜」。
「そんなもの もらっても
アタシは うれしくも何ともないし
ぜんぜん むくわれないっつーカンジ!「……あのエリザってコが 生きてれば
今ごろ みんな ハッピーで
星のオーラも ガッポリだったのに……。「くぅ〜 今からでも
どーにか なんないかな?
明らかに「エリザの死を悼む」という空気は読めていません。
しかし、この時点での9主人公の目的は、人々の感謝の気持ちの結晶「星のオーラ」を集め、地上に墜落した天の箱舟を動かして天使界へ帰ることです。
であれば、はねかざりバンドを貰って「全然報われない」というのも、「エリザが生きていれば今頃は星のオーラを得られていたはず。今からでもどうにかならないかな」というのも、プレイヤーが実はどこかで思うことではないでしょうか?
「エルキモす」
DQ9発売から16年、堕天使エルギオスの通称または蔑称として未だに使われる「エルキモス」ですが、初出はサンディの台詞です。
9主人公が初めてエルギオスと対面したとき、彼は肌も緑色がかり、翼の中ほどからは羽根がすべて抜け落ちて緑の翼膜となり、頭には一対のツノが生えている半異形と化していました。
その姿をサンディは「キモい」と形容し、彼の名前をもじって「エルキモす」と口にします。
「あいつ 天使……なんだよね?
どうして あんな キモい姿に
なっちゃったんだろ?(中略)
「……そんなことが あったんだ。
そりゃあ あの エルキモすも
人間を 恨んじゃうわ。
この場の「空気」は「変貌してしまったエルギオスの姿に恐れを抱く」でしょう。
しかし「キモい」もプレイヤーの感情として充分ありえます。
というより、これがまったくもって的はずれで誰ひとり共感しない発言だったなら、「エルキモス」という言葉が16年も使い続けられることはなかったと思います。
「好きにしていい」
エルギオスは人間界を見守る守護天使でありながら人間に裏切られ、ガナン帝国に捉えられて天使の力を搾取され続けた。そのため、人間を「存在すること自体が罪」と断じ、ガナン帝国を裏から操って人間界を滅ぼそうとしていた。
彼は「人間を守ろうとする女神セレシア、一度は滅ぼそうとしながらセレシアの挺身で思いとどまった創造神グランゼニスも同罪。人間に守る価値があると言うのならば、おまえも我が敵」と主張し、9主人公と戦闘になるが、天使には「自分より上位の天使には逆らえない」という理がある。「人も神もすべてを滅ぼす」と宣言し、まさにそれだけの力を得ようとしているエルギオスを、天使である9主人公は止めることができない。
もはや事態は行き詰まったと思われたとき、世界樹に女神の果実が実った。これは今までに9主人公が助けてきた人々の感謝の気持ちが結実したもの。
この果実を食べて人間になれば、9主人公は天使の理に縛られることなくエルギオスと戦える。
もちろんこの場の「空気」は「女神の果実を食べる」です。天使たちはこの事情こそ知らないけれど、9主人公に対して「あなたならなんとかしてくれるよね?」と思っています。女神セレシアからも「つらい選択を強いていることはわかっているけれど、もうこの方法しかない。エルギオスを止めて」と頼まれます。
しかし、サンディだけは違います。
「みんな 〇〇〇〇〇にばっか
たよっちゃって 勝手だよね?
そーゆーのって ムカつくんですケド!「〇〇〇〇〇は 今まで ずっと
がんばってきたんだからさぁ
後は もう 好きにしていいと思うよ。
もちろん、女神の果実を食べなければシナリオは進行しません。
それでも彼女は「好きにしていいと思うよ」と言ってくれたのです。
DQ10ではこうはなりません。
「この場はこういう空気です、もちろん従いますよね」とキャラクターが語ってくるのです。
敷かれたレールを走るだけ ——それは“複線化すれ違い”——
空気を語る具体例のひとつが、Ver.4.0のキュルルです。
10主人公とクオードは幻影のドミネウス邸に閉じ込められた。クオードは開かない扉を示し、「俺も貴様も、このままじゃ屋敷から出られないということさ!」と言うが、屋敷に迷い込む前に託された手がかりである星華のライトの存在を思い出し、ふたりでライトを探すことを提案、邸内へ取って返す。
ひとりになった10主人公の前にキュルルが姿を現し、そこから以下のようなやりとりになります。
「さっきのアイツは 〇〇〇〇〇〇も
ここから 出られないとか言っていたけど
そんなことは ないキュ。なぜなら………「エテーネルキューブが あるからキュ!
キューブを使えば 〇〇〇〇〇〇は すぐに
元の世界へ戻ることが できるキュ。「こんな あやしげな場所からは
一刻も早く 撤退することを 提案するキュ。(10主人公がすこしうつむく)
「……どうしたキュ?
「まさか さっきのアイツ……
クオードのことが 気になるキュ?(選択肢「はい・いいえ」)
(「はい」の場合)
「まったく キミの考えは 理解できないキュ。
第一に考えるべきは 自身の安全の確保……
他人のことを考えるのは それからキュ。「やれやれキュ……。
〇〇〇〇〇〇の意志は 固そうキュね。
好きにすると いいキュ。(「いいえ」の場合)
「なるほど。それは すまなかったキュ。
〇〇〇〇〇〇が 心配してるのは
クオード以外だったキュね。いずれにしても……(以下「はい」の場合に合流)
「あなたは人々が心配なので、エテーネルキューブで出ていくことはありません」という空気を読んだ行動が誘導されています。
とはいえ、これは「自分の安全よりも他人の無事を優先してしまう優しさを持った10主人公」の表現ともとれます。「結局選択肢はない」にしても、そう大きな問題ではないでしょう。
これが無視できない話になってくるのは、「選択肢がない」と「ヒロイン制度」が結びつき始める頃です。
破綻の兆が目立つとき ——天性の“ヒロイン”——
「選択肢がない」と「ヒロイン制度」が最悪の形で絡み合い、本作の象徴的な「問題」を体現しているのが、Ver.6のユーライザです。
代表的な要素は4つあります。「感情の巻き取り」「代理返答」「意志の歪曲」「功績の強奪」です。
順に整理してみます。
感情の巻き取り
悪神アシュレイは生前の自分を知ってほしいからと心域に自身の過去を映し出しており、主人公に「これから起こることをよく見て、おまえには俺とレオーネの同志になってもらいたい」と告げる。
その中のいち場面が、アシュレイとレオーネがダフィアから大魔王討伐の無事を祈った手作りのお守りを渡されたときのこと。ダフィアはふたりの師匠であるガーニハンにもお守りを手渡し、彼女を意識していたアシュレイは「師匠にもあるのかよ!」と嘆く。
ここで、カメラは幻影のアシュレイたちから、それを見つめる10主人公とユーライザに切り替わり、即座にユーライザが口を開きます。
「ずいぶん ほほえましい 記憶ですね。
けれど 内容からして この次は
大魔王との決戦でしょう……。「アシュレイの思惑に 乗せられているようで
シャクですが……そこで 何があったのか
どうにも 気になります。
これでこの場面は終わりです。
ユーライザが「微笑ましいけれどこのあとは大魔王との決戦」という場面の総括と、「アシュレイの思惑に乗せられているのはシャクだが、このあと何が起こるのか気になる」というそれを見せられた者の感情をすべて言葉にします。
よって、プレイヤー自身に何かを考える時間はない。つまりこれが感情の巻き取りです。
代理返答
上記のしばらくあとの場面です。
アシュレイが示した過去をすべて見終えて彼のもとにたどり着いた10主人公とユーライザ。
ユーライザはアシュレイの企みを咎め、「呪炎が生み出す憎悪に振り回されないで。ほかの英雄たちは皆乗り越えられました。勇者アシュレイならきっとできるはず!」と説得を試みるが、彼は「ぺらぺらうるせぇ天使だなぁ!」と応じない。
以降、そのままの流れで次のように続きます。
アシュレイ「俺の過去を見て どうだった 〇〇〇〇〇〇?
(10主人公にカメラが寄るが、メッセージウィンドウが割り込む)
ユーライザ「つらかっただろうとは 思います……。
(発言の間にカメラがユーライザにスライドする)
(アシュレイにカメラが切り替わる)アシュレイ「天使なんかに 聞いちゃいない!!
これ以上説明するまでもない代理返答です。
10主人公が名指しで聞かれたのに、なぜユーライザが代返したのか。
アシュレイが今は正気ではない(悪神である)ことを表現したかったのか、ユーライザを気の毒に見せたかったのか、彼女が喋り過ぎであることを逆手に取ったメタ自虐か?
プレイヤーに何を感じさせたくてこの流れを入れたのか、私にはわかりません。
この場面で共感できた人物は、プレイヤーの分身である10主人公でも味方側のユーライザでもなく、敵方に回っているアシュレイでした。
「なぜユーライザが答えるんだ」と。
意思の歪曲
ユーライザの髪型追加クエストシリーズ「散髪人形はお礼がしたい」のひとつ「お馬さんが見たい」でのことです。
追加されたポニーテールに髪型変更したユーライザから、「こちらは人気の髪型ということですが、私にも似合っていますか、〇〇〇〇〇〇?」と聞かれ、「ほめちぎる」と「じっと見つめる」のふたつの選択肢が提示されました。
私は「じっと見つめる」を選びました。ピアスが中途半端に隠れるのがイマイチで、特に「褒めたい」とは思わなかったからです。
すると、ユーライザは「……あの。そんなに見つめられると、さすがに恥ずかしいのですが…………」と言い、バーバードールは「ヤー。〇〇〇〇〇〇の気持ち、わかるバ。オイラも見ほれちゃうくらい、似合ってるバ!」と続けました。
私の10主人公は「じっと見つめ」ただけのはずなのに、「見惚れて何も言えない」に変換されたのです。
これは意思の歪曲です。
功績の強奪
最大にして最悪の問題です。
10主人公は一度も世界を救っていません。
出身村の事件を解決して一人前の冒険者になったあと、五大陸十都市の危機を救い、本来であれば失われていた破邪舟の技術を現代へ継承する手助けをした。
成したのはここまでです。
なぜなら、ユーライザが光輪の足場を作ってあげなければ、10主人公は冥王ネルゲルが変貌した冥獣王ネルゲルとの戦いを続行できず、冥王の心臓から落下して死んでいたためです。
つまり、10主人公が冥獣王ネルゲルと戦う以降の行動はすべて、あのとき天使の禁を破ってまで戦いに介入し、10主人公のために足場を作ってあげたユーライザの功績として回収されるのです。
創造神マデサゴーラも、邪竜神ナドラガも、時元神キュロノスも、絶対滅神ジャゴヌバも、ジア・メルド・ゲノスも、これから先のどんな敵を倒しても、それは10主人公の功績ではありません。
だって「ユーちゃん」がいなければ、10主人公は彼らとの戦いに辿り着くことすらできなかったのですから。
これが功績の強奪でなくて何でしょうか。
そして、これらは「ヒロイン問題」の始まりでも終わりでもありません。
同様の事例はこれまでにもあったし、この先も続いているのです。
レバーは誰が握るのか ——線路はつづくよどこまでも——
イルーシャの場合
Ver.5のイルーシャも主人公の存在抹消を行なっています。
10主人公とイルーシャが、アスバルの様子を見るために彼の部屋へ行く。すると間仕切りで囲われたベッドのほうから「今は……誰にも会いたくない」と声が聞こえる。イルーシャが先行して間仕切りの奥を覗き、10主人公に「……ちょっと様子がおかしいみたい」と声をかけ、ふたりともベッドに近づいていく。
そこにいたのはアスバルと声がそっくりなことを見込まれて身代わりにされたという魔族のボッガンで、彼はさっきまでつまんでいた焼き菓子の残り2枚を差し出して「キミたち。このお菓子あげるからさ。オレが替え玉をしてたこと、城のみんなには黙っててくれないかな……?」と頼んでくる。
イルーシャは困惑し、やがて首を振り「わたしはいらないわ。あなたが食べて」と言う。
ボッガンは「えっ、いらないの? じゃあいっただっきまぁ〜す!」と焼き菓子を2枚とも食べる。
ボッガンが差し出してきた焼き菓子は2枚です。多くのプレイヤーはこれを「10主人公とイルーシャに1枚ずつ」と認識したかと思います。
けれど、イルーシャが「わたしはいらない」と言った時点で、ボッガンは納得して2枚とも食べました。
「10主人公も断った」という描写がないまま話が進んだのです。
「10主人公は賄賂なんか受け取らない」という表現だとしても、「10主人公からイルーシャに目配せをして、自分の答えは決まっているのであとは彼女が決めて返事をするよう促す」としたほうが効果的でしょうし、場面全体の印象も大きく変わったはずです。
台詞や展開だけでなくこうした小さな描写すらも、主人公の存在を否定しているのです。
ポルテの場合
現在進行系で「ヒロイン問題」のスロットルを全開にしているのが、Ver.7のポルテです。
暁の使者コッケンから「特にそこのマヌケ面のお前ッ! お前から類まれなる善なる波動を感じるッ!」と容姿を貶された10主人公に対し、ポルテは「あはは! よかったね。〇〇〇〇〇〇。新たなファン、獲得だよ!」と笑い、主人公の尊厳剥奪に加担しました。
ロッキュネの身体を吸収して彼の記憶と知識を奪い、キューボにも瀕死の重傷を負わせた女神ゼネシアに対して「な、何か……ワケがあるんだよね? みんなにごめんなさいして。こんなのイヤだよ、ネーしゃま!」「2回もひどいことしたネーしゃまに、今度こそびしっと言ってやるんだから!」と、被害者の苦しみと女神ゼネシアの罪を軽視して「ネーしゃま♪ ポルるん♪ の仲」に終始した発言をする倫理の倒錯が見られます。
女神ゼネシアの弟的存在であるラキを差し置いて「彼女の死で最も傷ついてかわいそうな、皆から慰められるべき存在」として描かれるという感情の簒奪も起こっています。
最新Ver.7.4に至るまで相も変わらず、「ヒロイン」の存在が10主人公を含む周囲の存在を矮小化しているのです。
「選択肢がない」と「ヒロイン制度」のふたつの歯車は、お互いにお互いを加速させながら回り始めてしまいました。
ならば、これはもう“ボクたち”の物語ではない。ヒロインの言葉を聞き、悩みや成長、すなわち冒険を見守る物語で、“ボクたち”はその露払いを任されているだけです。
誰がための物語 ——たりないのは何か——
前述したユーライザの「つらかっただろうとは思います……」や、イルーシャの「あなたが食べて」が顕著なように、DQ10はヒロインが主人公の代わりに喋っています。
だから「ヒロインを見守る物語」になっているのです。
これが「“ボクたち”の物語」であるためには、「主人公の代わりに喋ってくれるキャラクター」ではなく、「喋ることで主人公の気持ちを形にしてくれるキャラクター」が必要でしょう。
私は、これもサンディがそうであると思っています。
DQ9において、天使界を裏切ってガナン帝国についたと思われた師匠イザヤールの行動は、彼の師匠であるエルギオスを含む帝国に囚われた天使たちを救出するための演技だった。イザヤールは暗黒皇帝ガナサダイに挑むも一蹴され、9主人公が彼を庇ってガナサダイと戦闘になり、これを倒す。
イザヤールが「自分の行いが間違っていたとは思わないが、おまえを欺き、傷つけてしまったことだけが心残りだった」とその成長と強さを認めて語ったとき、まだ息のあったガナサダイが9主人公を背後から急襲しようとして、イザヤールはこの攻撃から9主人公を庇い、両者は相討ちになる。
ガナサダイは闇に、イザヤールは光に消え、その場には立ち尽くす9主人公だけが残された。
私はもはや何周目かわからない再プレイなので、イザヤールの死は当然知っている展開です。
すると、そこへサンディが現れて、背後から映し出された9主人公を小突いたり周囲を飛び回ったりしながらこう言うのです。
「……〇〇〇〇〇。
そんな 暗いカオしないでヨ!
あんたは よく やったって。「ほら。ついに 悪いヤツらのボスを
たおしたんじゃん!
みんな きっと ホメてくれるヨ?「……………………。
「……そうだ! まだ つかまってる
天使が いるんでしょ?
そいつら 助けてやらないと。「きっと まだ この城のどこかに
とらわれてるんじゃないの?
さあ 早く 探しにいこーよ!
この言葉を聞いて、私は「そうか、“ボク”は今悲しいんだ」という気持ちになりました。
「ヒロイン制度」のある10では、こんな台詞と描写はもう見られないでしょう。
ヒロインたちは「イザヤールさん、最期まであなたや皆のことを想っていたのね……。〇〇〇〇〇、彼のお師匠様やほかの天使の皆を助けましょう。それがイザヤールさんの願いだったんだもの」と、すべてを「語る」のではないでしょうか。
あるいは、棒立ちの主人公より前に立ってうなだれ、「そんな……。こんなことってないよ……」と、「これは悲劇です」と訴えたうえで、悲しみの主体を主人公から奪ってしまうか。
DQ10はヒロインという「代弁者」を制度化して配置したことで、「沈黙をもって語る」という在り方を見失ったのです。
ボクたちは冒険者と呼ばれていた ——これからは“何”として——
DQ10の主人公は、もはや物語という大地の箱舟の先頭車両には乗り込んでいません。
そこにはヒロインが乗って、次の停車駅もそこまでの速度も、すべて彼女が決めています。10主人公は2両目のボックス席で待たされていて、箱舟の進行方向に敵が現れたときだけアナウンスで呼び出され、降車して進路の安全確保を引き受けるのです。
これはもう「“自分”の物語」ではない。
それでも、おそらく私はDQ10をやめられないと思います。
これからもプレイして、それで赤文字ワンクッションを置いてストーリー感想に文句を書くんでしょう。
この箱舟は空を飛ばず、敷かれたレールを走るだけですが、なんだかんだ居心地がいいのです。
ボックスシートは適度なスペースがあるし、車窓の景色は綺麗だし、不定期に回ってくる車内販売も面白いし、一緒に乗っている人たちは強そうでオシャレで楽しそうだし、何よりそこにいる“自分”が好きです。
けれどDQ10は“自分”を箱舟の先頭車両に立ち入らせてはくれない。
“自分”はただ運賃を払って乗車した利用客であり、運転手でもその友だちでもないからです。
運転手をやりたい、せめて彼女の友だちになりたい……そんな期待をDQ10に抱くのはもうやめます。
けれど、もしも次に先頭車両に乗るのがサンディのような人物で、「ねぇ、あんたそんなとこで何してんの? 早くこっちに来てくれないと困るんですケド」と2両目の“自分”を呼びに来てくれたら、きっと喜んで先頭車両に駆け込むでしょう。
ボックスシートも車窓も車内販売も同乗客も、「あなたの手でこの箱舟の行き先を決めていいと、誰かが無言で語ってくれる」という喜びには遠く及びませんから。
さらば、“うるわしの”DQ10。またいつか先頭車両への扉を開いてくれるその日まで。
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原作プレイ感想:
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